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アンバランスなふたり・アンバランスな世界。均衡を保つのは—ぼくの役目?日常系ファンタジー短編。

アンバランスなふたり・アンバランスな世界。均衡を保つのは—ぼくの役目?ライトなラノベ用日常系ファンタジー短編。第一話から読むにはコチラ

2013年11月

5.授業とアンバランス

06

ぼくたち3人が転生課に保護されてから一日が経過した。一日経過してわかったのは3つのことだ。1点目、ぼくたちは終止監視されており、側に人がいるか監視カメラがぼくたちの行動を記録しているらしいということ。
2点目、転生の儀を終えてミコとなったのは今確認できている限りでは碧と朱の二人だけで、他の失踪者たちはぼくと同じくケモノとして保護されていること。
3点目、ぼくたちを保護した転生課の人たちは、碧と朱のことを警戒しているような尊敬しているような微妙な温度で接して来るが、ぼくのことは意にも介さない、ということだ。

夜が明けて朝食を食べるぼくらの前に山中さんはふたたび姿を現した。
「どうだ。眠れたか」
「緊張して眠れなかった。朱と別々の部屋で寝るのはじめてだったし」
「そうね。私も同じ。みんながどうしているか気になってあまり眠れませんでした」
「そうか…ここでの生活は長くなる。早く慣れるといいが」
「長くって…いつまでですか?」
「きみたちにミコとしての自覚と自立が持たれるまでだ」
「えーーっ!なにそれー!何日かかるの?」
「私にもわからないが、短ければ数ヶ月。長ければ年かかるだろう」
「それは…困りますね。両親も心配しますし」
「だいたいミコとしての自覚を…ってなにをするの?こんなテレビも無い部屋でぼーっとしてるの、ヒマなんですケド」
「心配には及ばない。君たちにはミコとしての自覚を持ってもらうため、学んでもらうことは山ほどある。今日から読別な授業を受けてもらうよ」
目に見えて碧がいやーな顔をする。授業、と名のつくものを碧は憎んでおり、スキがあったら寝たいというダメな性分だった。逆に朱はそこらへんは従順で、優等生だ。

その日から世界の歴史や状況、宗教や戦争について施設のオトナたちからみっちり聞かされる毎日がはじまった。といっても、ぼくは床で眠っているフリをするだけ、碧はぼくとテレパシーでやりとりして時間をつぶすだけ。朱は真剣に話に聞き入っていた。
『ミコとしての自覚を…って言うけど、なんでこんな授業受けるんだろうね』碧がぼくに語りかけて来る。
『山中さんの言う事が本当なら、ミコってめちゃくちゃ強いんだろ。だから、へんなことをしないように国が教育しなきゃって事なんじゃないだろうか』
『私たちがヘンなことするわけないじゃんね!だいたい、凪と話すくらいしかまだできないし』
『他の事はできるようになってないのか?』
『んー。部屋で練習してみてるけど、イマイチ集中できなくて』
『そうか。望めばなんでもできるって。何ができるようになるんだろうな』
『カレーが無限に出て来るとか、そういうのはできないのかなー』
『食い意地かよ!』
と、ぼくと碧が無駄話している間も、地球のさまざまな場所で起こっている凄惨な状況を語る授業に対し、朱は耳をじっとかたむけていた——。

4.魔法とアンバランス

04
「碧さんと朱さんには既に説明したが、二人はミコとして選出されたようだ」山中さんがなんの感慨も見せず淡々とぼくに説明する。
「っていっても、私たち髪の毛の色が変わったくらいでなんの実感もないんですケド」
「ミコはじきに魔法のような能力を有し始める——と伝承では言われている。飢餓に苦しむ国があれば小麦を与え、争いの絶えない国があれば力を行使する、と」
「小麦ですか…出せる気がしませんね」
「すぐにそこまでの能力を有するのは難しいだろう。少しずつ段階を踏んで学んで行くものらしい」
山中さんがかやの外だったぼくに視線を合わせる。「ケモノになった夕野君と話せるようになる、という程度の能力であればすぐにラーニングできるかもしれないな」
「凪と!?話せるようになるの?」半信半疑で話を聞いていた碧が前のめりになる。
「どうすればいいんでしょうか?」朱がとまどいながら山中さんに問いかける。
「伝承によるとミコは願えば全て事が叶う、とあるが、これでは具体性に欠けるな…」

すぐにその場で碧と朱の魔法訓練がはじまった。
んー!とかあー!とかうなりながら気合いを入れる碧。静かに手を合わせて祈り続ける朱。
「古代のミコは自らの力を増幅させる手段を持っていたと考えられている。ある者は杖を媒介に力を増幅し、ある者は呪文という手段で実現させたという」
「私たち魔法の杖とか持ってないんですケド」
「おそらくは…私の推測では、気分を高めるための手段がある、という問題なのではないだろうか」
「なるほど…試してみましょう」朱がさっきぼくを映したコンパクトミラーをかぱりと開く。なんて古典的な魔法少女のようなマジックアイテムだ。
「う…うつせ真実の姿よ。我に夕野凪と会話する力を!」
朱が思い切ってわりと恥ずかしいセリフを口にした瞬間、鏡からわずかな光が放たれる。
『凪、聞こえる?凪?』朱の声が僕の頭に響いて来るような感覚があった。テレパシー、と言われるような能力なのだろうか。
『聞こえるけど…こっちの声は聞こえるのかな?』
『聞こえた!!私できたみたいね!』朱が満面の笑みをこぼす。
ぼくたちのやりとりは碧と山中さんには聞こえていなかったようで、何が起こったのか、という顔でぼくたちを見ていた。
「私、凪と話せたみたいです」
「本当か!鏡が光ったのは錯覚ではなかったのか…たいしたものだ」
「えーっ!朱だけずるい!!私も凪と話したいよう!」ぶすーと頬を膨らます碧。碧は朱に負けるのが嫌、というよりは一緒でいたい、という気持ちの強いやつだった。
碧は遅れを取るまいと大きくふりかぶって、ぼくを指差し「ジュ ヴドレ パルレ ア ナギ・ユーノ!!」と唱えると…ふわりと風が舞い指先からわずかな光がこぼれる。
『おおっ!碧もできたんじゃないか?』
『凪の声だ!すごーいオオカミと喋れてる!!』はしゃいだ様子で碧がガッツポーズを取る、
「碧もできたみたいね。なんとなくの呪文っぽさすごかったけど…」
「気分が大切なのだよ。こういうのは」山中さんが笑いもせずに相づちをうつ。

ぼくと話ができたことで満足した二人に対して施設内を案内するという山中さんの提案があり、ラウンジのような場所に連れられて来た。ぼくはもといた部屋に置いて行くという話だったのだが、二人が断固反対し、ぼくもついでに着いて来た形だ。
「それで…私たちこれからどうなるんでしょうか?家の人が心配していると思うんですが」
「そーだよ。凪のおとうさんもヨッシーもゆーちゃんも心配してるよ」
不安げに二人が顔を見合わせる。
「きみたちには事情が事情なので当面この施設で過ごしてもらう。ご家族には私からご説明し、極力不安に思われないようにする」
「えーまじですかー」

ぼくは施設内をチェックし、全てのドアにセキュリティキーが設置されており、自由に出入りはできないことを確認した。『勝手に帰らせてくださいってわけには…いかなそうだね』

3.転生とアンバランス

03
起きると見慣れないグレーの壁にかこまれた簡素な部屋だった。状況を確認しようと立ち上がったが、視点が低い———これは何やらおかしくないか?と思った所で部屋のドアががちゃがちゃと開いて碧と朱と見慣れないオトナの男性の姿が見えた。

「凪ーっ!!起きたかーよかったぁ!!」
ぼくより遥かに視点が高い所にいる碧ががばりとぼくを抱きしめる。おいおい友達とはいえずいぶん大胆なスキンシップじゃないか、と言おうとした所で自分の舌がうまくまわらない事に気がつく。
「驚くのも無理はないよ凪。いま凪はね、オオカミなんだよ」とぼくの疑問をフォローするように朱が意味不明な発言をしたので、それってどういうこと?と返そうとするがまたも舌がまわらない。
説明代わりに朱からコンパクトミラーを差し出され——ぽかんとする。確かにぼくは碧にフカフカされるがままのケモノの姿だった。なんだそれは。
「きのうの夜に受けた『転生の儀』を機に、私たちまったく別のイキモノに変わっちゃったみたいなの」
朱から突然専門用語を出されるし、ぼくは返事できないしでちんぷんかんぶんだ。
ハテナマークを全面に出していたら、それまで部屋の隅で黙っていた背後のオトナの男性が話し始めてくれた。

「私は文部科学省転生課の山中だ。ここは転生課Y市支部の施設で、転生の儀を受けた少年少女が保護されている」
山中さんはグレーのスーツのいでたちで40代といったところだろうか。落ち着いた様子で説明を続ける。
「転生の議はいまある世界の危機を救うためにミコの選出を行う儀式で、きみのように人間以外のカタチになって保護されるか、転生に耐えられずに命を落とす」
「ただし例外があり、ごくわずかな数の少年少女はミコとして転生し、神となる資質をもって生まれ変わるんだ」
山中さんから淡々と意味不明な説明を受け、ツッコミも入れられずぽかーんとするいっぽうのぼくだったが、説明を要約するに
・地球はじわじわと滅亡の危機に瀕している
・過去にも何度かそういったピンチがあり、その際には危機を乗り越えるためには超自然的な力を持ったミコが立ち上がっていた
・ミコは少年少女の中から選出される。それが『転生の儀』
・今回はぼくたちの住むY市からミコが生まれる啓示があった
・スパムは山中さんたちが送っているものではなく発信元はナゾ
・条件を満たした環境下で転生の儀が行われた事を察知し、転生の儀を受けた少年少女を保護に向かうのが山中さんたちの仕事
…といった話だった。何度も繰り返している説明のようで手慣れたものだった。

「そんな話信じられないっ!って思うけど、凪の姿を見ると信じないわけにはいかないよね」
と碧がうむうむとうなずく。
「私たちが誘ったばかりに凪を巻き込んでしまって、本当にごめんなさい…」
じわりと朱の目に涙がうかぶ。わーっ!泣くのはやめてくれ!と声を出せずにいると、「朱のせいじゃないよ!私が無理に誘ったからだよ!」と碧も泣きそうな顔になる。泣き虫のデュエットは勘弁して欲しい。双子に泣かれるのは、ぼくが恐れていることのひとつだ。

「夕野君の事は残念だったが、きみたちがミコとして転生したのは世界としてはありがたい状況だ」
残念ってぼくは死んでないし!とツッコみを入れたい気持ちになった瞬間、なるほど、と納得する。碧と朱が髪の色が変わったくらいでぼくのようにケモノの姿になっていないのは、『ミコ』とやらに選ばれたからなのか。

2.メッセージとアンバランス

01

自室で夜更けにふたたび携帯がぶるる、と鳴るまで『選ばれし御子よ』メッセージのことはすっかり忘れていたぼくだった。ぼくは決して友達は多くないので、着信をまたスパムかと思いうんざりしてメッセージを開いた。
『碧でーす。今なにしてる?今日面白いスパムが届いたんだけど。朱と一緒にその内容がホントか確かめようと思って、夜の冒険に出るところ!凪も来ない?』
要領を得ない内容だが、スパムという単語と夜の冒険という危険な誘いにぼくの警戒心がふたたびモヤモヤと首をもたげる。
急いで返信を打つ。『冒険ってこんな深夜に?どこに行くの?』
すぐに碧から返信メッセージの着信が来る。『鏡音神社だよ』
えーっ?とぼくは思わず声をあげる。もしや、そんな、ぼくと同じ超怪しいメッセージを受け取って。それを真に受けてノコノコと出かけて行っちゃうの?
碧は正義感が強くていいやつだが、基本的に単純でアホだった。学校で先生に叱られたときに「おまえは校庭を100周しろ」と言われたら、その言葉のままに素直に走りに行っちゃうようなやつなのだ。
だけれど慎重派の朱と行動を共にすることでで無茶な事をする、というのはそんなに起こらないはずだった。朱は碧とは正反対で、人の言葉の意味を考え、裏をかき、ちょっぴり策略家。そんなやつで、小学校の時は生徒会長を務め先生たちを裏で操ってたといわれる程度の賢さがある、それが朱だ。
ぼくは急いで碧にメールを打つ『もしかして選ばれし御子とかそういうメッセージ?ぼくも受け取ったけど、ただのデンパだよあれ。危ないしやめよう』
しばらく間があって、今度は朱からの電話の着信が携帯に表示される。急いで通話ボタンをタッチする。
「こんばんは。神社の件なのだけれど…」とひそひそと碧からの声が聞こえる。
「さっき返信したけど、ぼくもそれ受け取ったよ。あきらかにスパムじゃん。やばいって」ぼくも隣室のみーちゃんを起こさないようにひそひそと話す。
「だけれど、気になるの」
「なんで?ただのデンパじゃないの?」
「けさの不登校の話なのだけれど、ネットで気になるウワサがあって」
朱の話を聞くに、日本各地で同じ内容のメッセージを受け取った子供たちが謎の失踪を遂げているという都市伝説があるのだそうだ。そして、けさ話にあがった不登校児もその事件に巻き込まれたというウワサを読んだらしい。なんだそれ。がぜん危険じゃないか。
「なおさら危ないじゃん」と、ぼくは素直な感想を述べる。
「でも同じクラスのコのこと、ほうっておけないし何があったのか知りたいの」
朱の声から強い意思を感じる。こういう時の朱はやっかいで、自分の意見をまげないことをぼくは知っていた。好奇心は猫をも殺す、というのはイギリスのことわざだが、朱の場合はどっちかっていうと豹かな。
「誰かオトナの人を連れて行ったら?」
「もう家を出ちゃったし、もうすぐ神社」
前言撤回。朱もそんなに賢くはない。まっすぐなバカさは碧と同じだ。
『選ばれし御子よ』メッセージの件もお騒がせな双子の件も放っておけばいいのに、ぼくはこっそり家を抜け出し自転車に乗って鏡音神社に向かっていた。困っている人を放っておけない。いや、うそだ。あの双子のことをぼくは放っておけないのだ。
薄暗い夜道にペダルを漕ぎながら最悪の事態について考えていた。もしナゾの組織が好奇心のある子供をおびき寄せて誘拐する企てだとしたら、ぼくが駆けつけてもできることなんで全然ないぞ。
でももしも碧と朱と二度と会えなくなってしまったら、と思うとぞっとした。

鏡音神社はぼくたちの住む市の中心部にある、かなり大きなお社だ。ぼくも何度か初詣に参ったことがある。
その名の通り鏡がお社に祀ってある、という事は知っているが、細かい由来までは知らないし、鏡は本殿に納められていて一般公開はしていないはずだった。
きぃっ!と自転車のブレーキが甲高い声をあげる。鏡音神社の入口に双子の自転車が置いてあるのを確認した。二人の姿は無い。
ぼくが着くまでその場を動くな、と言ったのにちっとも言う事を聞いていない!
自転車に鍵もかけずぼくは神社の境内に駆け込んだ。しんとして人の気配が感じられず、ぼく自身の心臓の鼓動が鳴り響くのみだ。
姿をうつす、とあったので本殿の鏡のほうに二人は行ったのかもしれない。そう考えて走る。走る。境内は広い。そして暗くて方向感覚を失う。
「碧ーっ!朱ーっ!」二人の名を呼びながら本殿の前まで走っていくと、ぴん!と急に肌に冷気が感じられた。
なんだ?と周囲を確認しようとすると「きみはだーれ?」と背後から幼い声が聞こえた。
慌ててふりむくと、闇に溶け込むように黒いワンピースの幼い少女が佇んでいる。人の気配など無いと思っていたのでぼくは動揺した。
「え?きみは…どうしたの?女の子二人を見なかった?」
「ちがうよ。あたしが聞いてるの!きみはだーれ?」
「ぼ…ぼくは夕野だ。そんなことはどうでもよくって…ぼくは碧と朱っていう女の子を探してるんだ」
ふうん、とようやく納得した顔で少女は頷く。
「巫女様ならそこでねんねしてるよ」と本殿の脇にある湖を指差す。月明かりの下、双子らしき二人が寄り添うように倒れているのが見えた。
「碧!朱!」二人のそばに駆け寄ると、異変が感じられた。なにかが…おかしい?
碧の髪の毛は栗色だったのが漆黒に。朱の髪の毛は栗色だったのが銀色に染まっている。明かりがないせいで見間違えたかと思ったが、ちがう。確かに髪色が変わっている。
でも今はそんなことはどうでもいい。二人が無事かを確かめなければ——。
安否の確認をするっていっても、ぼくは専門家ではないので詳しい方法はわからない。おそるおそる碧の首筋に手をあてると、脈が確認できた。朱も同じで意識は無いが生きている、という状態のようだ。
「こういう時は——救急車?か…」ぼくはポケットの携帯を取り出して119をコールしようとした「夕野。巫女様は大丈夫だよ。そんなことより…水面を見てみれば?」と背後の少女が語りかけてきたので、ぼくはふっと意識を湖面に持って行くと——そこには、空に浮かぶ満月と、オオカミがいた。
えっ?言葉を発したつもりだったが、ぐるりと世界が反転し、濡れた土の感触を頬に感じてぼくは意識を手放した。

1.平凡とアンバランス

maker
平々凡々なぼくの日常生活は大空を彼女が覆うことで、いとも簡単に崩れ去った。
銀色に染まった大空を仰ぎ、過ぎ去りし彼女たちとの日々を想う。これは魔女と呼ばれた彼女と、女神と呼ばれた彼女と、傍観者であるぼくの物語だ。

異変から時は遡って三か月前。9月のことだ。
未来の見えないニュースへの母親の嘆き、クラスメイトのたわいもないウワサ、近所で起こった不審な事件-これらがぼく、夕野凪を取り巻く全てだ。
ふわりと朝食のかおりが鼻をくすぐる。台所では母のヨッシーこと佳子がスパムおにぎりとお味噌汁を慌ただしく用意しているのだ。
「おはよう凪!ゆーちゃんはとっくに出かけたわよ。凪も早く食べてね。お母さんも早く出なきゃいけないから」
ゆーちゃんはぼくの5つ年の離れた妹で、インドアなぼくには似ずに運動能力に長け小学三年生にして陸上部に所属し大会で賞を獲ったりしており、クラス内の人気者だ。けさも朝練に出かけたのだという。
ぼくはインドア派のため中学二年生にして部活無所属の帰宅部で、朝もこうしてぎりぎりまで家での時間をエンジョイしているといったわけだ。
『さて次のニュースです。天文学者の間で太陽のエネルギーの低下が報告されており、寒冷化の予兆といわれています。今後さらなる研究が…』
「やーね。今年の冬は寒くなるのかな?お父さん寒がりだからインナーウェア買っておいてあげなきゃ」
ヨッシーが不安げにテレビのニュースをみつめる。朝からみんなが不安になるニュースを流してなんになるのだろう、とぼくは思うけれど、思うに世の中というやつは「世の中は厳しいんだぞ。気を緩めるなよ」という事を伝えるために朝からバッドニュースを流しているのではないだろうか。
太陽は長いこと営業してるんだし、いまさら太陽をやめちゃうなんてことないよ。と適当な相づちを打ちながらごちそうさまをした。

学校への坂道を歩いていると、背後からステレオでいつもの挨拶が聞こえる。
「おっはー!」
「おはよう」
元気が溢れたおっはー!の声の持ち主は、夏野碧。声からも見た目からもはつらつさが感じられるボブ姿の少女だ。
落ち着いたトーンで発されたおはようの声の持ち主は、夏野朱。いかにも秀才といったお嬢様風のぱっつん前髪のロングヘアの少女だが、碧と顔はうりふたつ。というのも、碧と朱は一卵性双生児なのだ。
聞いた話だと碧と朱は幼い頃は双子らしくと同じ服・同じ髪型を親から与えられていたのだが、成長するにつれは二人はつらつ・おっとりという正反対の性格を見せるようになり、正反対のファッションを歩み始めたといわれている。
彼女たちはぼくのクラスメイトで、中学からと知り合ってから日は浅いが、ある事件が縁で毎朝の挨拶を交わすまでになった。
朝食を食べてから家を出たにも関わらず、コンビニで買った菓子パンの袋をびりびりとやぶきながら碧が世間話をはじめる。
「凪のクラスの吉田さん、学校来ないらしいね」
「碧、そんな食生活してると太るぞ」
「そんな話をしてるんじゃないのっ!私の話じゃなくて吉田さんのはーなーし!」
ふくれっ面で丸い菓子パンをほおばったものだから、碧の顔はまるでリスだ。げっ歯類なの?と口に出そうと思ったがやめる。
「体でも悪くしてるんじゃないのか?ぼくは知らないけれど」
「吉田さんだけじゃないの。私たちのクラスにも理由もわからず不登校になった子がいるの」
朱が含みのある物言いをするものだから、ぼくは少しだけ不登校事件のことが気になった。このご時世不登校なんて珍しくもなんともないけれど、1学年にそう何人も出るものでないというのはわかる。
「でも、よくあることじゃない?夏休み明けに休みがちになるってさ」
いまは9月で、夏休みが終わったばかりなので中学生としては気の緩みもマックスだった。ぼくも次の休みまで指折り数えているくらいだ。
「たしかにね、偶然かー。つまんないの!」
菓子パンを食べ終わった碧が言葉通りつまらなそうな顔をする。学校から、もうすぐ時間だぞ!という声が聞こえたため慌てて三人で走りだし、この話題は打ち切られた。
碧をいさめつつ、ぼくも、この時「なにか刺激的なことが起こらないかな?」と心の中で考えていたのだ愚かにも。今考えると、愚かとしか言いようがない。日常こそ取り返しがつかないものはないのだ。目の前の幸せをきちんと手を掴んで離さないようにしなければ、風に飛ばされるのごとくすぐに失ってしまうのに。ぼくは。なにも、できなかった——。

数学の授業を念仏のように漠然とした印象で聞いているなか、ぼくのポケットに入ったスマートフォンがぶるるとメッセージの着信を伝えた。
教師にばれないようにメッセージを確認すると、「選ばれし御子よ」というありえないレベルの怪しい件名だった。送信者は…知らないアドレスだ。完全なスパムだろう。
ただ、ぼくは刺激に飢えていたし授業に退屈していたのもあって、この時メッセージの本文に目を通す気になった。

『選ばれし御子よ。力を持ちし偉大なる存在よ。使命を全うするため目覚めなければなりません。過酷な道のりになるでしょう。多くを捨てることになるでしょう。それでも、未来を選択しなければならないのです』
やばいなー。いつものスパムより頭のネジが外れているといえるだろう。思わずメッセージの続きを目で追った。
『封印は既に解かれています。あなたは未来を選択しなければなりません。自らの使命を知るため、鏡音神社で月が満ちたとき姿を映すのです』
正体不明のメッセージはそう締めくくられていた。なんだこれはーとぼくは訝しがるいっぽうで、鏡音神社というこの市では聞き慣れた神社の名前が書かれていることが気になった。
怪しげなWebサイトに誘導してクラックしたり、個人情報を抜き取ろうと返信させる策を取るはずのスパムメールが、ただ神社に来いという。神社で誰かが待っているのだろうか?それこそやばいのかもしれないーと警戒心が沸き上がった所で授業に意識を戻した。


このブログについて

ライトなラノベコンテスト用作品ブログです。

ペンネームは『激ねむスヤスヤ丸』。略してねむ丸でよいです。普段はただの会社員。
普通の小説を書くのははじめてなもので行きあたりばったりですが、書き終える事を目標にがんばりまーす。
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