06

ぼくたち3人が転生課に保護されてから一日が経過した。一日経過してわかったのは3つのことだ。1点目、ぼくたちは終止監視されており、側に人がいるか監視カメラがぼくたちの行動を記録しているらしいということ。
2点目、転生の儀を終えてミコとなったのは今確認できている限りでは碧と朱の二人だけで、他の失踪者たちはぼくと同じくケモノとして保護されていること。
3点目、ぼくたちを保護した転生課の人たちは、碧と朱のことを警戒しているような尊敬しているような微妙な温度で接して来るが、ぼくのことは意にも介さない、ということだ。

夜が明けて朝食を食べるぼくらの前に山中さんはふたたび姿を現した。
「どうだ。眠れたか」
「緊張して眠れなかった。朱と別々の部屋で寝るのはじめてだったし」
「そうね。私も同じ。みんながどうしているか気になってあまり眠れませんでした」
「そうか…ここでの生活は長くなる。早く慣れるといいが」
「長くって…いつまでですか?」
「きみたちにミコとしての自覚と自立が持たれるまでだ」
「えーーっ!なにそれー!何日かかるの?」
「私にもわからないが、短ければ数ヶ月。長ければ年かかるだろう」
「それは…困りますね。両親も心配しますし」
「だいたいミコとしての自覚を…ってなにをするの?こんなテレビも無い部屋でぼーっとしてるの、ヒマなんですケド」
「心配には及ばない。君たちにはミコとしての自覚を持ってもらうため、学んでもらうことは山ほどある。今日から読別な授業を受けてもらうよ」
目に見えて碧がいやーな顔をする。授業、と名のつくものを碧は憎んでおり、スキがあったら寝たいというダメな性分だった。逆に朱はそこらへんは従順で、優等生だ。

その日から世界の歴史や状況、宗教や戦争について施設のオトナたちからみっちり聞かされる毎日がはじまった。といっても、ぼくは床で眠っているフリをするだけ、碧はぼくとテレパシーでやりとりして時間をつぶすだけ。朱は真剣に話に聞き入っていた。
『ミコとしての自覚を…って言うけど、なんでこんな授業受けるんだろうね』碧がぼくに語りかけて来る。
『山中さんの言う事が本当なら、ミコってめちゃくちゃ強いんだろ。だから、へんなことをしないように国が教育しなきゃって事なんじゃないだろうか』
『私たちがヘンなことするわけないじゃんね!だいたい、凪と話すくらいしかまだできないし』
『他の事はできるようになってないのか?』
『んー。部屋で練習してみてるけど、イマイチ集中できなくて』
『そうか。望めばなんでもできるって。何ができるようになるんだろうな』
『カレーが無限に出て来るとか、そういうのはできないのかなー』
『食い意地かよ!』
と、ぼくと碧が無駄話している間も、地球のさまざまな場所で起こっている凄惨な状況を語る授業に対し、朱は耳をじっとかたむけていた——。