04
「碧さんと朱さんには既に説明したが、二人はミコとして選出されたようだ」山中さんがなんの感慨も見せず淡々とぼくに説明する。
「っていっても、私たち髪の毛の色が変わったくらいでなんの実感もないんですケド」
「ミコはじきに魔法のような能力を有し始める——と伝承では言われている。飢餓に苦しむ国があれば小麦を与え、争いの絶えない国があれば力を行使する、と」
「小麦ですか…出せる気がしませんね」
「すぐにそこまでの能力を有するのは難しいだろう。少しずつ段階を踏んで学んで行くものらしい」
山中さんがかやの外だったぼくに視線を合わせる。「ケモノになった夕野君と話せるようになる、という程度の能力であればすぐにラーニングできるかもしれないな」
「凪と!?話せるようになるの?」半信半疑で話を聞いていた碧が前のめりになる。
「どうすればいいんでしょうか?」朱がとまどいながら山中さんに問いかける。
「伝承によるとミコは願えば全て事が叶う、とあるが、これでは具体性に欠けるな…」

すぐにその場で碧と朱の魔法訓練がはじまった。
んー!とかあー!とかうなりながら気合いを入れる碧。静かに手を合わせて祈り続ける朱。
「古代のミコは自らの力を増幅させる手段を持っていたと考えられている。ある者は杖を媒介に力を増幅し、ある者は呪文という手段で実現させたという」
「私たち魔法の杖とか持ってないんですケド」
「おそらくは…私の推測では、気分を高めるための手段がある、という問題なのではないだろうか」
「なるほど…試してみましょう」朱がさっきぼくを映したコンパクトミラーをかぱりと開く。なんて古典的な魔法少女のようなマジックアイテムだ。
「う…うつせ真実の姿よ。我に夕野凪と会話する力を!」
朱が思い切ってわりと恥ずかしいセリフを口にした瞬間、鏡からわずかな光が放たれる。
『凪、聞こえる?凪?』朱の声が僕の頭に響いて来るような感覚があった。テレパシー、と言われるような能力なのだろうか。
『聞こえるけど…こっちの声は聞こえるのかな?』
『聞こえた!!私できたみたいね!』朱が満面の笑みをこぼす。
ぼくたちのやりとりは碧と山中さんには聞こえていなかったようで、何が起こったのか、という顔でぼくたちを見ていた。
「私、凪と話せたみたいです」
「本当か!鏡が光ったのは錯覚ではなかったのか…たいしたものだ」
「えーっ!朱だけずるい!!私も凪と話したいよう!」ぶすーと頬を膨らます碧。碧は朱に負けるのが嫌、というよりは一緒でいたい、という気持ちの強いやつだった。
碧は遅れを取るまいと大きくふりかぶって、ぼくを指差し「ジュ ヴドレ パルレ ア ナギ・ユーノ!!」と唱えると…ふわりと風が舞い指先からわずかな光がこぼれる。
『おおっ!碧もできたんじゃないか?』
『凪の声だ!すごーいオオカミと喋れてる!!』はしゃいだ様子で碧がガッツポーズを取る、
「碧もできたみたいね。なんとなくの呪文っぽさすごかったけど…」
「気分が大切なのだよ。こういうのは」山中さんが笑いもせずに相づちをうつ。

ぼくと話ができたことで満足した二人に対して施設内を案内するという山中さんの提案があり、ラウンジのような場所に連れられて来た。ぼくはもといた部屋に置いて行くという話だったのだが、二人が断固反対し、ぼくもついでに着いて来た形だ。
「それで…私たちこれからどうなるんでしょうか?家の人が心配していると思うんですが」
「そーだよ。凪のおとうさんもヨッシーもゆーちゃんも心配してるよ」
不安げに二人が顔を見合わせる。
「きみたちには事情が事情なので当面この施設で過ごしてもらう。ご家族には私からご説明し、極力不安に思われないようにする」
「えーまじですかー」

ぼくは施設内をチェックし、全てのドアにセキュリティキーが設置されており、自由に出入りはできないことを確認した。『勝手に帰らせてくださいってわけには…いかなそうだね』