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アンバランスなふたり・アンバランスな世界。均衡を保つのは—ぼくの役目?日常系ファンタジー短編。

アンバランスなふたり・アンバランスな世界。均衡を保つのは—ぼくの役目?ライトなラノベ用日常系ファンタジー短編。第一話から読むにはコチラ

5.授業とアンバランス

06

ぼくたち3人が転生課に保護されてから一日が経過した。一日経過してわかったのは3つのことだ。1点目、ぼくたちは終止監視されており、側に人がいるか監視カメラがぼくたちの行動を記録しているらしいということ。
2点目、転生の儀を終えてミコとなったのは今確認できている限りでは碧と朱の二人だけで、他の失踪者たちはぼくと同じくケモノとして保護されていること。
3点目、ぼくたちを保護した転生課の人たちは、碧と朱のことを警戒しているような尊敬しているような微妙な温度で接して来るが、ぼくのことは意にも介さない、ということだ。

夜が明けて朝食を食べるぼくらの前に山中さんはふたたび姿を現した。
「どうだ。眠れたか」
「緊張して眠れなかった。朱と別々の部屋で寝るのはじめてだったし」
「そうね。私も同じ。みんながどうしているか気になってあまり眠れませんでした」
「そうか…ここでの生活は長くなる。早く慣れるといいが」
「長くって…いつまでですか?」
「きみたちにミコとしての自覚と自立が持たれるまでだ」
「えーーっ!なにそれー!何日かかるの?」
「私にもわからないが、短ければ数ヶ月。長ければ年かかるだろう」
「それは…困りますね。両親も心配しますし」
「だいたいミコとしての自覚を…ってなにをするの?こんなテレビも無い部屋でぼーっとしてるの、ヒマなんですケド」
「心配には及ばない。君たちにはミコとしての自覚を持ってもらうため、学んでもらうことは山ほどある。今日から読別な授業を受けてもらうよ」
目に見えて碧がいやーな顔をする。授業、と名のつくものを碧は憎んでおり、スキがあったら寝たいというダメな性分だった。逆に朱はそこらへんは従順で、優等生だ。

その日から世界の歴史や状況、宗教や戦争について施設のオトナたちからみっちり聞かされる毎日がはじまった。といっても、ぼくは床で眠っているフリをするだけ、碧はぼくとテレパシーでやりとりして時間をつぶすだけ。朱は真剣に話に聞き入っていた。
『ミコとしての自覚を…って言うけど、なんでこんな授業受けるんだろうね』碧がぼくに語りかけて来る。
『山中さんの言う事が本当なら、ミコってめちゃくちゃ強いんだろ。だから、へんなことをしないように国が教育しなきゃって事なんじゃないだろうか』
『私たちがヘンなことするわけないじゃんね!だいたい、凪と話すくらいしかまだできないし』
『他の事はできるようになってないのか?』
『んー。部屋で練習してみてるけど、イマイチ集中できなくて』
『そうか。望めばなんでもできるって。何ができるようになるんだろうな』
『カレーが無限に出て来るとか、そういうのはできないのかなー』
『食い意地かよ!』
と、ぼくと碧が無駄話している間も、地球のさまざまな場所で起こっている凄惨な状況を語る授業に対し、朱は耳をじっとかたむけていた——。

4.魔法とアンバランス

04
「碧さんと朱さんには既に説明したが、二人はミコとして選出されたようだ」山中さんがなんの感慨も見せず淡々とぼくに説明する。
「っていっても、私たち髪の毛の色が変わったくらいでなんの実感もないんですケド」
「ミコはじきに魔法のような能力を有し始める——と伝承では言われている。飢餓に苦しむ国があれば小麦を与え、争いの絶えない国があれば力を行使する、と」
「小麦ですか…出せる気がしませんね」
「すぐにそこまでの能力を有するのは難しいだろう。少しずつ段階を踏んで学んで行くものらしい」
山中さんがかやの外だったぼくに視線を合わせる。「ケモノになった夕野君と話せるようになる、という程度の能力であればすぐにラーニングできるかもしれないな」
「凪と!?話せるようになるの?」半信半疑で話を聞いていた碧が前のめりになる。
「どうすればいいんでしょうか?」朱がとまどいながら山中さんに問いかける。
「伝承によるとミコは願えば全て事が叶う、とあるが、これでは具体性に欠けるな…」

すぐにその場で碧と朱の魔法訓練がはじまった。
んー!とかあー!とかうなりながら気合いを入れる碧。静かに手を合わせて祈り続ける朱。
「古代のミコは自らの力を増幅させる手段を持っていたと考えられている。ある者は杖を媒介に力を増幅し、ある者は呪文という手段で実現させたという」
「私たち魔法の杖とか持ってないんですケド」
「おそらくは…私の推測では、気分を高めるための手段がある、という問題なのではないだろうか」
「なるほど…試してみましょう」朱がさっきぼくを映したコンパクトミラーをかぱりと開く。なんて古典的な魔法少女のようなマジックアイテムだ。
「う…うつせ真実の姿よ。我に夕野凪と会話する力を!」
朱が思い切ってわりと恥ずかしいセリフを口にした瞬間、鏡からわずかな光が放たれる。
『凪、聞こえる?凪?』朱の声が僕の頭に響いて来るような感覚があった。テレパシー、と言われるような能力なのだろうか。
『聞こえるけど…こっちの声は聞こえるのかな?』
『聞こえた!!私できたみたいね!』朱が満面の笑みをこぼす。
ぼくたちのやりとりは碧と山中さんには聞こえていなかったようで、何が起こったのか、という顔でぼくたちを見ていた。
「私、凪と話せたみたいです」
「本当か!鏡が光ったのは錯覚ではなかったのか…たいしたものだ」
「えーっ!朱だけずるい!!私も凪と話したいよう!」ぶすーと頬を膨らます碧。碧は朱に負けるのが嫌、というよりは一緒でいたい、という気持ちの強いやつだった。
碧は遅れを取るまいと大きくふりかぶって、ぼくを指差し「ジュ ヴドレ パルレ ア ナギ・ユーノ!!」と唱えると…ふわりと風が舞い指先からわずかな光がこぼれる。
『おおっ!碧もできたんじゃないか?』
『凪の声だ!すごーいオオカミと喋れてる!!』はしゃいだ様子で碧がガッツポーズを取る、
「碧もできたみたいね。なんとなくの呪文っぽさすごかったけど…」
「気分が大切なのだよ。こういうのは」山中さんが笑いもせずに相づちをうつ。

ぼくと話ができたことで満足した二人に対して施設内を案内するという山中さんの提案があり、ラウンジのような場所に連れられて来た。ぼくはもといた部屋に置いて行くという話だったのだが、二人が断固反対し、ぼくもついでに着いて来た形だ。
「それで…私たちこれからどうなるんでしょうか?家の人が心配していると思うんですが」
「そーだよ。凪のおとうさんもヨッシーもゆーちゃんも心配してるよ」
不安げに二人が顔を見合わせる。
「きみたちには事情が事情なので当面この施設で過ごしてもらう。ご家族には私からご説明し、極力不安に思われないようにする」
「えーまじですかー」

ぼくは施設内をチェックし、全てのドアにセキュリティキーが設置されており、自由に出入りはできないことを確認した。『勝手に帰らせてくださいってわけには…いかなそうだね』

3.転生とアンバランス

03
起きると見慣れないグレーの壁にかこまれた簡素な部屋だった。状況を確認しようと立ち上がったが、視点が低い———これは何やらおかしくないか?と思った所で部屋のドアががちゃがちゃと開いて碧と朱と見慣れないオトナの男性の姿が見えた。

「凪ーっ!!起きたかーよかったぁ!!」
ぼくより遥かに視点が高い所にいる碧ががばりとぼくを抱きしめる。おいおい友達とはいえずいぶん大胆なスキンシップじゃないか、と言おうとした所で自分の舌がうまくまわらない事に気がつく。
「驚くのも無理はないよ凪。いま凪はね、オオカミなんだよ」とぼくの疑問をフォローするように朱が意味不明な発言をしたので、それってどういうこと?と返そうとするがまたも舌がまわらない。
説明代わりに朱からコンパクトミラーを差し出され——ぽかんとする。確かにぼくは碧にフカフカされるがままのケモノの姿だった。なんだそれは。
「きのうの夜に受けた『転生の儀』を機に、私たちまったく別のイキモノに変わっちゃったみたいなの」
朱から突然専門用語を出されるし、ぼくは返事できないしでちんぷんかんぶんだ。
ハテナマークを全面に出していたら、それまで部屋の隅で黙っていた背後のオトナの男性が話し始めてくれた。

「私は文部科学省転生課の山中だ。ここは転生課Y市支部の施設で、転生の儀を受けた少年少女が保護されている」
山中さんはグレーのスーツのいでたちで40代といったところだろうか。落ち着いた様子で説明を続ける。
「転生の議はいまある世界の危機を救うためにミコの選出を行う儀式で、きみのように人間以外のカタチになって保護されるか、転生に耐えられずに命を落とす」
「ただし例外があり、ごくわずかな数の少年少女はミコとして転生し、神となる資質をもって生まれ変わるんだ」
山中さんから淡々と意味不明な説明を受け、ツッコミも入れられずぽかーんとするいっぽうのぼくだったが、説明を要約するに
・地球はじわじわと滅亡の危機に瀕している
・過去にも何度かそういったピンチがあり、その際には危機を乗り越えるためには超自然的な力を持ったミコが立ち上がっていた
・ミコは少年少女の中から選出される。それが『転生の儀』
・今回はぼくたちの住むY市からミコが生まれる啓示があった
・スパムは山中さんたちが送っているものではなく発信元はナゾ
・条件を満たした環境下で転生の儀が行われた事を察知し、転生の儀を受けた少年少女を保護に向かうのが山中さんたちの仕事
…といった話だった。何度も繰り返している説明のようで手慣れたものだった。

「そんな話信じられないっ!って思うけど、凪の姿を見ると信じないわけにはいかないよね」
と碧がうむうむとうなずく。
「私たちが誘ったばかりに凪を巻き込んでしまって、本当にごめんなさい…」
じわりと朱の目に涙がうかぶ。わーっ!泣くのはやめてくれ!と声を出せずにいると、「朱のせいじゃないよ!私が無理に誘ったからだよ!」と碧も泣きそうな顔になる。泣き虫のデュエットは勘弁して欲しい。双子に泣かれるのは、ぼくが恐れていることのひとつだ。

「夕野君の事は残念だったが、きみたちがミコとして転生したのは世界としてはありがたい状況だ」
残念ってぼくは死んでないし!とツッコみを入れたい気持ちになった瞬間、なるほど、と納得する。碧と朱が髪の色が変わったくらいでぼくのようにケモノの姿になっていないのは、『ミコ』とやらに選ばれたからなのか。

このブログについて

ライトなラノベコンテスト用作品ブログです。

ペンネームは『激ねむスヤスヤ丸』。略してねむ丸でよいです。普段はただの会社員。
普通の小説を書くのははじめてなもので行きあたりばったりですが、書き終える事を目標にがんばりまーす。
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  • 4.魔法とアンバランス
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  • 2.メッセージとアンバランス
  • 1.平凡とアンバランス
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